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音楽の友 

2020年5月号 [People]

取材・文   小倉多美子 
 
「昨年14歳でデビュー  社会性も備えた大器」

  次代を担うチェリストとして今注目を集めているのが、昨年10月、沼尻竜典(指揮)日本フィルハーモニー交響楽団 × サントリーホールの「とっておきアフタヌーン」に14歳でデ ビューした鳥羽咲だ。同シリーズ昨ンーズンのテーマは「マエストロと新星が紡ぐストーリー」。服部百音 (vn)、藤田良央(p)と並びニュー・スターとしてフィーチャーされ、難曲チャイコフスキー《ロココ風の主題による変奏曲》を、朗々とした美音と細部までさえわたる技巧で好演し、文字通り新星として話題を集めた。

  2005年3月ウィーン生まれ、この4月から桐朋学園大学ソリスト・ディプロマ・コースに特待生として在籍している。父はヴァイオリニスト、 母はピアニストの家庭で、最初に習ったのはビアノで母からだった。「とても厳しかった」そうだが、それもそのはず。母・泰子氏はジュリアード音楽院卒、「魂のヴァイオリニスト」とし て名を刻む故・若林暢の共演者であ り、咲音さんの伴奏も務めている。6歳から毛利伯郎に師事し、「泉の森ジュニアチェロコンクール」中学生の部・金賞(2018)、モスクワでの若い音楽家のためのコンクール「くるみ割り人形」全弦楽器部門で銅賞等々、幼少時からの国内外コンクール入賞歴は枚挙にいとまがない。

 憧れのチェリストはジャクリーヌ・デュ・プレ。「その勢い、自由さ、情熱的な演奏、集中力の高さに惹かれる」という。そしていま夢中になっているのが、ロシア音楽。「2018年12月に初めてモスクワを訪れた際に1日中暗いなか、5分間だけ太陽の光が見えたときの感動は忘れら れません。好きな曲はたくさんありますが、ショスタコーヴィチ《交響曲第9番》、《ヴァイオリン協奏曲第1番》、《チェロ協奏曲第1番》、ストラヴィンスキー《春の祭典》などは最近とくに好きです」。ロシア語も好きで勉強し始めた。英語はもちろん、ドイツ語も以前から勉強中だという。

  5月にはリサイタル、6月には日本音楽財団ロビーコンサート等、公演予定も多いが、本人は「同世代の学生さんに少しでもクラシック音楽のすばらしさを知っていただきたいし、スクール・コンサートをポランティア活動として行っていきたい」 と、小中堂校でのコンサートにも積極的。社会性も備えた大器として、期待は高まるばかりである。