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レコード芸術
2020年3月号 

 

文:鈴木 裕 / 大木正純 / 中村孝義

 
メンデルスゾーン:ピアノ三重奏曲第1&2番
モーツァルト:ピアノ小品集
 

 

   

メンデルスゾーン:
ビアノ三重奏曲 第1 &2番 LinkIcon

東京トリオ

 
 
 
 
 
 
 

新譜月評  優秀録音 : 鈴木 裕

 その曲がよく聞こえる滴奏がいい演奏という言い方があるが、その演奏が好演に聞こえるものがよい録音と言えるかもしれない。このCDを聴ききながらそんなことを考えていた。ホールのよい席で聴いているような自然な感覚があり、 演奏のよさに引き込まれていく。
 
  いわゆるオーディオ的な偏差値の高い、3人の音像がくっきりするような空間表現力のある音ではないし、3人のそれぞれの音像もまとまりがちだ。ただし、それぞれのやっていることがよく聞こえてくるし、なにより音楽の推進力やたゆたうところでの空気感の伝わり方がすばらしい。ここでチェロがメロディを朗々と歌ってほしい、というときにチェロが前面に出てその美しい響を聴かせてくれつつも、バックに回っているビアノやヴァイオリンのフレーズもしっかり聞こえてくる。音楽としてのパランスを崩さない。デュナーミクの徴妙な変化も見事に聴かせてくれる。やはりいい録音なのだ。
 
 

Disc Review   大木正純:準 

  東京トリオはジュリアード音楽院に学び、1990年代に数々の国際コンクールで優勝ないし入賞、ウィーンでの一時期を経て現在は日本で活躍するピアノの島羽泰子、インディアナ州立大を卒業後、日本フィルのコンサートマスターを経て現在はニュージーランド交響楽団に所属するヴァイオリンの江口有香、それにパリ音楽院の出身で現在は東京都交響楽団の副首席を務めるチェロの江口心一の3人により、2013年に結成されたユニット。ビアノ三重奏団にとっては最重要レパートリーのひとつとなるメンデルスゾーンの2曲をリリースした。
 
  重厚な響きで綴られたメンデルスゾーンだ。第2番の終曲など、その重量感はただごとではない。これは思うに、3人がメンデルスゾーンのスコアにドイツ・ロマン派ならではの濃厚な情念を見出していることの結果ではないだろうか。ここぞというときにテノボを落としてたっぷりと歌うあたりは、比較的あっさりと済ましてしまいがちな現代の平均値とは少し違う気がする。
 
  2曲とも、ロマン派美学の極をゆく緩徐楽章が、ここで最大の聴かせどころとなるのは自然な成り行きである。対してスケルツォは、どちらもまるでそれまでの埋め合わせ(?)のように、超快速で疾走する。意図はわかるのだが、速度ではなく“妖精のような軽み“を、と私は 思うのだがどうだろうか。とかくくどさを感じさせることの多い第1番の終曲を、すっきりまとめているあたりは実力の証である。
 
 

Disc Review   中村孝義:推薦

 2013年にピアノの鳥羽泰子、ヴァイオリンの江口有香、チェロの江口心一によって結成され、定期的に国内でも演奏活動を続け、2019年にはニュージーランドでも演奏会を持った東京トリオによるメンデルスゾーンのピアノ三重奏曲 2曲を収めたアルバム。ジュリアードで学び、非常に各音の粒立ちとメリハリのはっきりした、それでいてよく流れる演奏を展開する鳥羽のビアノ、第55回(1986年)日本音楽コンクールに優勝し、非常に切れ味の良いボウイングを駆使して一瞬の遅滞も起こさない鮮やかな演奏を繰り広げる江口有香のヴァイオリン、パリ国立高等音楽院でプルミエ・プリを獲得しており、非常に骨太でしかも的確な演奏をする江口心一ら3人の奏者の技術水準は高く、また結成されてすでに7年を経過しているだけに、アンサンプルも熟しつつあることがよく分かる演奏を展開している。第1番の冒頭部分を聴いただけでも、江口心一の堂々たるチェロが印象的で、彼が下からしっかり支えていることによってアンサンブルに充実をもたらしている。彼らの表現は、メンデルスゾーンならではの気品の高さをしっかりと保ちつつ、音楽の内からほとぱしり出てくる熱量の大きさを決して矯めることなく、思い切りよく燃焼度の高い音楽へと昇華しているのが素晴らしい。
 
  有名な第1番の演奏も素暗らしいが、それにも増して第2番における完全に燃焼しきった演奏は感動的で、作品の良さを改めて見直させるほどである
 


 
 

モーツァルト: ピアノ小品集

ピアノ:鳥羽 泰子 /
ヴァイオリン:ダニエル・フロシャウアー

 
 
 
 
 
 
 

録音 = 92点: 吉井 亜彦

 モーツァルトの変妻曲や最初期のクラヴィーア作品における鳥羽泰子の演妻は、しっかりとしたインテリジェンスに裏打ちされたものだ。変奏曲での急激なテンポの変化や大胆な表情付けなどには筋が通っており、危うさがない。
 
 最初期の作品に対しても的確な距離が保たれている。いずれも理路整然としたと形容しうるような構成力に貫かれた再現だ。ウィーン生まれで、 ウイーン・フィルでも活馴するフロシャウアーとの共演も同じ性格を示している。なお、解説書の演奏家バイオグラフィは曇新のものにする配慮がほしかった。